春の宝石箱*ジャーマンアイリスの広がる庭

我が家の植物図鑑

 春になると、庭のあちらこちらでジャーマンアイリスが咲きはじめます。
まるで宝石箱をひっくり返したように、色とりどりの大ぶりな花が次々と顔を見せ、庭が一年でいちばん華やぐ季節の始まりです。
私の庭づくりは、この花との出会いから始まりました。

 この記事では、東北の雪深い地域で10年以上ジャーマンアイリスを育ててきた実体験をもとに、
ジャーマンアイリスとの出会いやその魅力、育て方のコツ、品種の選び方や花姿の楽しみ方などをご紹介します。

これから育ててみたい方にも、すでに育てている方にも、少しでもお役に立てたら嬉しいです。

最初に出会った、憧れの花

 ジャーマンアイリスは、私が「この花を庭に植えたい」と心から思って選んだ、はじめての花でした。
それまでもさまざまな植物を育ててきましたが、「自分の庭でこの花を咲かせたい」と強く願って購入したのは、この花が初めてです。

 丈夫であること、豊富な花色、そして優雅で華やかな花姿―その魅力に惹かれましたが、雪国で本当に育ってくれるのかどうか、最初は少し不安もありました。
そこでまずは、ネット通販で一種類だけ購入し、試しに両親の畑を借り植えてみることにしたのです。

すると1年後、その株は思いのほか立派に育ち、美しい花を咲かせてくれました。
「これはいける」と確信できた瞬間でした。

 その後、山形県内でジャーマンアイリスを専門に育てている生産者さんを見つけ、さらに2種類を追加しました。
その方の畑では、余った根茎をそのまま地面に置いておいただけでも立派に育っており、
そのたくましさに驚くと同時に、「本当に丈夫な植物なんだ」と実感したことを、今でもはっきりと覚えています。

整っていなかった庭で

 その当時のわが家の庭は、まだ造成したばかりで、もともとは田んぼだった土地。
水はけも悪く、決してジャーマンアイリスにとって良い環境とは言えませんでした。

造成したての我が家の庭。

でもどうしてもこの花を咲かせたくて、胸を高鳴らせながら植えつけました。
「育たないかもしれない」「この土では難しいかもしれない」
そんな不安を抱えながら過ごした1年後、思いがけず立派な花を咲かせてくれたのです。

造成したばかりの土地に植えたジャーマンアイリスの苗。雪の下で冬を越し、次の春の様子
庭で初めて咲いたジャーマンアイリスたち
2年目の春の様子。株が充実してきている

未熟な土でも花を咲かせてくれる――
その生命力に励まされ、私はますますこの花に夢中になっていきました。

花色を集めるたのしみ

 それから10年以上、ジャーマンアイリスを育て続けています。
少しずつ自分好みの花色を集めて、今では30種類以上にもなりました。

 春になると、花色や品種によって開花時期が少しずつずれていることにも気づきました。
一斉に咲く華やかさも素敵ですが、少しずつリレーのように咲いていく様子も、また格別です。

ジャーマンアイリスの育て方と工夫

 丈夫とはいえ、日本の気候で育てるには少し工夫が必要です。
とくに湿気にはやや弱い印象があります。

私が気をつけていること

  • 高畝で植え付ける
     植え付け時に畝を高くし、風通しと水はけが良くなるように努めています。
  • 株元を蒸らさないこと
     株のまわりの草はこまめに取り、密植を避けて風通しを保つようにしています。梅雨どきなどはとくに注意。雨上がりの暑さで株が蒸れて、根茎が腐ってしまうしまうことがあります。
  • 定期的な株分け
     だいたい4年に1回ほどのペースで株分けを行い、混み合った株のリフレッシュと、減ってしまった品種の再生(株を優先的に増やす)をしています。
春の除草前。草は雪の重みで固くなった土を耕してくれるので、あまり早い時期には取りません
除草後。草丈に埋もれてしまう前にようやく除草。陽の光を浴びてここから一気に伸び始めます

 私が住む場所は冬に雪が深く積もり、寒さも厳しい地域ですが、ジャーマンアイリスは地植えでもまったく問題なく越冬します。
冬の間、葉は地上部から消えてしまいますが、春になるとしっかり芽吹いてくれる―その姿に、何度も元気をもらっています。

早春の様子。新しい葉が展開し始める

腐ってしまった株との向き合い方

 育てていると、時には根茎が腐ってしまうこともあります。
多くの本やサイトでは「その株はすべて処分してください」と書かれていることが多いのですが、
長年大切にしてきた株をあきらめるのは、簡単なことではありません。

全部が腐ってしまっている場合はやむを得ませんが、まだ元気な部分が残っている場合、私は復活を試みます。

私が行っている応急処置

  1. 腐ってしまった株を掘り上げて、しっかり確認
  2. 腐っている箇所を大きく切り取り、きれいな切り口になるまでカット
  3. 切り口をしっかりと乾かす(数日間、日光消毒を兼ねて)
  4. 使用したハサミなどはすぐに洗い、こちらも日光で消毒

 この方法で復活した株も、わが家にはたくさんあります。
諦めずに手をかけることで、また元気に育ってくれることもある――
それを知ってからは、ますます花との関係が深まった気がします。

花姿のハーモニー

 ジャーマンアイリスの品種には、豪華でフリルの多いものが多くあります。
つい、そうした華やかなものばかり集めてしまいがちですが、
私はシンプルな花姿のものも大切にしています。

なぜなら、フリルの多い花だけを並べると、少し重たい印象になることがあるからです。
そこに凛としたシンプルな花を混ぜることで、庭全体に軽やかさが生まれ、
互いの美しさを引き立て合うようなバランスが生まれます。

ジャーマンアイリスをもっと美しく見せるコツ。
それは、「豪華さ」ではなく「調和」にあるのだと思います。

花を誰かに届けるということ

 これまで株分けしても植えきれなかった株は、残念ながら処分せざるを得ませんでした。
でも今年から、少しずつ販売を始めています。

この花の魅力を、誰かと分かち合いたい。
私の庭で咲いてくれた花が、誰かの庭にも春の喜びを届けてくれたら―
そんな思いで、ひとつひとつの株を大切に育てています。

おわりに

 ジャーマンアイリスは、春の庭を彩る宝石のような存在です。
たくましさと優雅さをあわせ持ち、毎年開花の季節が訪れるたびに私の心を明るくしてくれます。

これからも、土に手を入れ、風を感じながら、ひとつひとつの花と向き合っていけたら。
そんな気持ちで、今年も春を迎えています。

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